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“小さな歴史”と“生きる“ということ [literature]

nozoku.jpg台湾で買った小説の収穫を。

僕たちが途方に暮れてしまうのは、LGBTのライフスタイルを、つまり自分の明日の姿を描くのが難しいからだ。女性が職を持ちシングルで生きていこうとするとき、お手本になるような現実の生き方の提示は彼女の背中を押すだろう。でもきっと、男社会で最初にそれをやってのけるのは並大抵のことではなかったに違いない。そういう歩き出す勇気をもった人がいて、徐々に歩く人が増えていけば、そこに道はできる。

けれどもLGBTが抱える困難は、その比ではない。だからこそ、僕らにはどういう生き方、どういうライフスタイルが可能なのか、を少しずつでも提案していく必要があるような気がする。解説で、小さな歴史(“小史”)というキーワードを用いた紀大偉に倣えば、LGBTの日常のささやかな断片は、僕らに生きる勇気を与えてくれる。徐嘉澤の短篇集『窺』は、そういう可能性を広げてくれるものとして読むことができる。ゲイ小説は、いつもふしだらな欲望を煽りたてるものというわけではないのだ。

「未盡之言」は、平和な日常に鉄鎚のように落ちてきた癌という病を受け止めるゲイの青年とその恋人の姿を描く。そこにはセックスはない。けれども長く共に生きていこうとする愛はある。愛といい方が鼻につくのなら、絆とかつながりということばで置き換えてもいい。ゲイであるだけでなく、病まで得てしまい、彼らに未来はない。でも最後の日々を生ききろうとする彼らの姿は、僕らのライフスタイルのひとつとして抽斗にしまっておきたいと思う。

癌の恋人が黙って書いていたラブレターを偶然見つけて読んだあと、主人公は震える手でそのファイルを閉じる。

將窗戶關上,緊盯著小兔的臉,那安穩、年輕、帥氣的臉,我不禁跪在窗前禱告著,以他信服的上帝為禱告的對象,如果可以我願意替他承擔這一切,這樣的愛或許別人看起來很蠢,但對我來説卻很真實。夜持續地深去,在這裡我們有許多未盡之言漂浮在空氣之中,我們不等待也不反抗死亡的到來,至少要把我們彼此之間能做的及要做的共同完成,我看著床上安穩的他如此確信地想著。(pp47-48)

消えゆく命を見守りながらも、ここには、僕らが生きていくための現実のリズムがきちんと刻まれている。『窺』は、こういうささやかで愛すべき“小史”を、覗きみる(窺)ための作品集なのだ。

●徐嘉澤『窺』(基本書坊、2009年2月)

タグ:台湾 LGBT
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